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米国では、会社と従業員の関係は”at will”という雇用形態が一般的です。会社は基本的に会社都合で従業員を解雇でき、従業員も自己都合で会社を退職することができるため、アメリカでは日本と異なり、従業員の会社への忠誠心は薄く、会社も勤務時間以外で本業と競業しない範囲において、従業員の副業を認めています。

パンデミックを契機として、より自由な生活スタイルを求める人が増えたことにより、個人で事業を行う人が増えていることは間違いありません。

そうした時に最初に出てくる疑問が、フリーランスとして事業を行うのか、それとも、LLC (Limited Liability Company) を設立した方が良いのか、ということではないでしょうか。私自身、今まで多くの個人事業主の方々やこれから個人で起業したいと考えている人たちに、この質問をいただきましたが、そのたびに、LLCの設立をお勧めしています。

この記事では、米国でのフリーランスとLLCオーナーの違いを見ながら、どうしてLLCの方が良いのかを考えていきたいと思います。

まず最初にフリーランスですが、日本とは異なり、米国では、フリーランスとして事業を始める際に、税務署等への登録は不要です。自分の名前と異なる屋号でビジネスを行う場合には、DBA (Doing Business As)として、その屋号を事業を行う州へ届け出ることが必要ですが(これは後述するLLCの場合も同様)、そうでない場合は、そうした届け出も不要です。例えば、田中花子さんがフリーランスの美容師、Hanako TanakaとしてNY州で事業を行っている場合、NY州への特別な登録等は一切不要ですが、もし、この方がHanako Tanakaと異なる名前(いわゆる屋号)で美容師として事業を行う場合には、DBAの登録が必要となってきます。

フリーランスとして個人で事業を行ったり、複数人で事業を行う場合でも会社形態とせずにパートナーシップとしている場合の最大の欠点は、万が一事業に起因して何かあった場合に、個人資産にまでその影響が及んでしまうことにあります。例えば、誰かに訴えられて敗訴してしまった場合、事業が上手くいかずに各種支払いが滞ってしまった場合等、事業に起因した支払いであっても、事業資産で対応できない場合には、個人資産から支払いを行なわなければいけません。

訴訟大国とも言われるアメリカで、ビジネスと個人を一体化させてしまっている状態は、大きなリスクです。一方で、LLCは、いくつかのステップはあるものの、一定の書類を届け出ることで、大きな手間なく設立をすることが可能で、LLCのオーナーとして事業を行う限りにおいて、事業のリスクはLLCを超えて個人資産にまで及ぶことはありません。

では、LLC設立のための諸経費は、いくらぐらいでしょうか。NY州での設立の場合、新聞二紙へのLLCの設立公告が必要となってくるため、LLCの所在地をNY州内のどこのエリアとするかによって公告費、さらにはLLC設立のための総費用は大きく異なってきます。物価の高いマンハッタンの場合、公告費は$1000を超えてしまいますが、公告費の安いアルバニーで設立し、後日会社の住所をマンハッタンへと移行するという方法をとった場合、NY州でのLLC設立のための総費用はおよそ$600で済ませることができます(会計士に設立を依頼する場合は別途その費用が発生します)。それ以後は、2年に一度Biennial StatementのNY州への届け出が必要(現時点での届け出費用は$9)なこと以外は、特別な手続きは要りません。

また、年に一度の確定申告でも、一人オーナーのLLCである場合とフリーランスである場合とでは、何ら違いはありません。どちらの場合でも、個人の確定申告書の一部であるSchedule Cというフォームを作成し、事業からの収入と費用を申告するのです。

LLCとした方が、たとえ一人の会社であった場合でも、会社のオーナーとして、フリーランスよりも社会的な信用力も増すことでしょう。

こうした理由から、米国での起業の場合、私はフリーランスよりもLLCをお勧めしています(LLC設立の方法については、こちらの記事をご参照ください)。

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